第4章 抱擁
夕凪――
俺の気持ち、ちゃんと伝わってた?
あの日、盆の日、
おまえに早く会いたくて予定より少し早く帰省した日、
初めておまえのこと抱きしめた日。
こっそり待ち受けに俺との写真なんか設定してよ、恥ずかしそうに携帯見ないでって言ってきた時、夕凪はひょっとしたら俺のこと、好きかもしんねーって思った。
抱きしめて、おまえが俺の背中に手を回した時は、死ぬほど嬉しかったし、俺の気持ち通じたかなって思った。
だけど、夕凪はいつも不安そうだったよな。
俺はこんなにおまえのこと好きだってのに。夕凪しかいないってのに。
おまえはいつも自分より俺で、そこが他の女と全然違って、まるで空気みたいに当たり前にそこにいた。
……
あの日、盆の日、
隣に立つ君があまりに美しくて何も言えなかったあの日。
僕はさ、離れで好きだって言おうとしたんだ。それで夕凪を僕のものにしたかった。
でも、好きって言葉は、僕たちの関係を表すにはあまりに大衆的で、あまりに普通すぎて、薄っぺらい気がしてさ……
僕は、夕凪を見ながら1番その時の気持ちに近い言葉を告げたんだよね。
ずっとそばにいて、って。
ずっと僕の見えるとこにいて、って。
それは、まだ、ぼんやりしたものだったけど、これから先もずっと未来も、って僕はそう思ってた。
でも、やっぱり……好きって言えばよかったのか? ちゃんと好きってはっきり言っておくべきだったのか?
今頃になってあの盆の日の事を少し後悔してる。
僕が好きって言ってたら、そしたら、君は、夕凪は、
今も……
僕のそばにいてくれた?