第4章 抱擁
悟くんの着物の襟足から樟脳の匂いがする。あたしは悟くんの和装が大好きだ。だから大好きすぎてこんなに近いのは苦しい。
でも、これはきっと、和装だからとかそういうことじゃない……。
抱きしめられながら肩にうずくまる悟くんを感じながらあたしも悟くんの背中にゆっくり手を回す。想像してたより広くて固い背中に驚いた。背中をぎゅっと抱きしめると悟くんがもっと強くあたしの腰を抱きしめる。
帯で抱き締めにくいかもしれない。薄物の着物で密着するふたりの体温が、まるで火を起こすかのようにあたしの心に熱を灯す。
――ねえ、この想いは何?
熱で炙り出されるかのように、その答えがゆっくりと文字になってあたしの心に浮かび上がった。
五条悟の事が好き――
だけどあたしはその気持ちを口にはしなかった。言葉にしたら2人の関係が変わってしまいそうで、始まりを告げればいつか終わりを迎えそうで、どうしようもなく深い沼にハマりそうで、想いを声にしなかった。
そしてそれはきっと、あたしの自惚れじゃなければ、悟くんも同じ気持ちだったんじゃないのかな?
あたしたちは何も言葉を交わさないまま、しばらくの間、ずっとお互いを抱きしめていた。