第15章 エピローグ
とある昼下がり。五条家の屋敷に伏黒恵くんが訪れた。呼んだのはあたしだ。
「恵くんコーヒーのおかわりは?」
「いえ、大丈夫です」
「じゃあ、日本茶に変えて、喜久福のずんだ餅食べる?」
「ほんとに気を使わなくていいですから、それより五条先生のことですよね」
ごくりとあたしは唾を呑んだ。恵くんがカバンの中を開けてスマホを取り出す。
「何回も言いますけど、五条先生が浮気とかありえないですよ」
「ううん、あたしは聞いたの。いかがわしい会話を」
「夕凪さんの勘違いだと思いますけど……」
冷静にあたしを説き伏せる恵くんは、年の離れた弟みたいなもんだ。
五条家が後見人になっていることから、あたしは何度か伏黒邸に足を運び、ご飯を作ってあげたんだけど、顔を合わせているうちに、親しく話すようになった。
「五条先生は、ガキの俺にまで言うんっすよ『なつくのはいいけど夕凪は人妻だからな、僕のだからな、手出すなよ』って。誰彼構わずそんな事言う人が浮気なんかしますか」
切長の美しい凛とした黒目で駄目押しをしてくる。
けど、恵くんはあたしの真剣な揺るぎなき眼に折れたのか、スマホのホーム画面を徐に開き、音声アプリを立ち上げた。
「そんなに疑うなら、これ聞いてください。五条先生が浮気してないってわかりますから」
恵くんが、アプリの再生ボタンの上に人差し指を向ける。高専での日常をボイスメモに収めたらしい。
あたしが浮気を疑っているのは高専内の人間だ。材料の一つとして、聞くことにする。
「いきますよ」
「うん、お願い」
「虎杖の会話から始まりますから。途中、わからないとこあれば聞いてください」
あたしが頷くと音声が始まった。