第13章 幸せのピース
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『xx航空より、羽田へご出発のお客様にご案内いたします。xx航空110便、羽田行きの機内へのご案内時刻につきましては……』
搭乗口ゲートが開く時刻のアナウンスが流れた。
「って事で羽田まで迎えよろしく」
五条の運転手に到着時刻を伝えて電話を切る。これで指定した時刻に、羽田空港まで迎えに来るだろう。夕凪が北海道で生活してた荷物や道具は全て引き払って、送るもんはすべて五条の屋敷に送った。
後は夕凪と子供を東京に連れて帰るだけだ。隣に立ってる夕凪を見ると、北海道の氷に負けねーくらいガッチガチに凍りついた顔してる。僕と再会した時と同じ顔だ。
笑わねー。
話は右から左で聞いてねー。
無表情で反応ねー。
生ける屍みてぇな感じ。
「羽田まで迎えの車が来るから、車乗ったら宝と一緒に寝てろ。勝手に到着すっから」
「そんな……悪いよ。あたしバスで行く! 乗り継いで最後は歩くから」
「どこの誰が婚約者に "ローカル路線バス乗り継ぎの旅" やらせんだよ。高級車で、直接、五条の門の真ん前までピッタリ乗り付けだかんな」
まるで、はりつけの刑でも食らったみてぇな顔してるけど、オマエはこれからずっとVIPな生活だ。何ひとつ不自由はさせねぇって決めてる。
「夕凪は僕の婚約者で、オマエはそれに同意してる。宝は五条の長男。わかった? バスとかそんな選択肢ねーから」
黙ったけどまぁいい。何を言おうが高級車に乗っけて連れて帰るのみ。納得したのか観念したのか、夕凪は少しガチガチの氷が溶けたようだ。宝に話しかけている。
「宝の住むところは大きなお屋敷なの。ドキドキするね。途中でお腹空いて泣いちゃわないよう満腹にして行こうね」
母親してる夕凪もなかなか可愛いじゃねーか。けど、全然子持ちに見えねぇし、他の誰かに取られねーよう、さっさと婚約すませて婚姻すべきだよな。五条家を背負ったらさすがに夕凪も勝手にどっか行ったりしねぇだろうし。
硝子は「前にも増して溺愛の過保護になったな」って言うけど普通だろ。
――もう二度と夕凪を失いたくない。それだけ。