第9章 婚約者は誰?
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誕生日当日は、悟くんだけが五条家に帰省した。あたしは当然呼ばれてるわけないし、普通に学校がある。その日は任務もなく七海と高専で1日を過ごすというこれまた結構退屈な日。七海ごめん、決して君の話が面白くないと言っているわけじゃない。今日はどんな話も頭に入ってこないだけ。
悟くんから連絡ないかななんて、授業と授業の合間にイルカの携帯ストラップを引っ張り出してみるけれど、通知が来ている様子はない。
夕方になってもなんの音沙汰もなく、悟くんから連絡が来たのは、睡魔が襲い出した午後11時を回った頃だった。着信表示に悟くんの携帯番号が出てワンコールで取る。
「もしもし」
「あ、夕凪?」
「うん」
「遅くなって悪りぃー」
「大惨事になってない? 死人出てないよね?」
「どんだけ横暴なイメージなんだよ」
悟くんの声色は予想に反していたって穏やかだ。深刻な感じもしないし普通の電話と変わらない。連絡が遅くなったのは忙しかっただけだって言う。
「あの18才のお誕生日おめでとう。お祝いは今度またゆっくりね。それで……遺言はどうだった?」
「あぁ、問題ない。これまでと同じように夕凪と付き合うつもりだけど」
「問題ない、ってどういうこと?」
「内容に関しては僕と本家しか知る事が出来ないんだよね。婚約者は今は明かせないようになってる」
「そう……」
明かすことは出来ないって言われた以上、遺言についてこれ以上聞き出すのは難しそうだ。
それがあたし達にとって悪い内容ではなかったのか、もしくは、悟くんが力ずくでその遺言を何とか出来るものだったのか、そこは判断がつかないけれど、悟くんはこれからもあたしと付き合うって言うし、あたしだって別れたいわけじゃないから、婚約者の不安は拭えてはいないけど、悟くんのそれに同意した。