第9章 第25章 決戦と喪失 1812～1813ページ

ここ数年のの天元への行動を思い返してみても、確かに杏寿郎に対して行っていたものをしている様子はない。

杏寿郎がへ想いを伝える前に天元が自分の元へ来ないかと誘った時など、迷いなくその手を取ることをせずに杏寿郎の元を選んだのだ。

「そうだったな。それを認識すればするほど愛しくなって仕方がない！こうして今は名実共には俺の妻となったわけだが、どうも君は人を惹きつけてしまう。良い事だと分かっていても好かれすぎて心労が尽きんのだ」

「そう……なのですか？私は杏寿郎君がこの世界の何よりも愛しくて大好きなので、よそ見をする余裕は全くありませんよ。それはこれまでもこれからも一生変わりません。誰よりもお慕いしております」

温めるように握ってくれている杏寿郎の手に口付けを落とし、少し頬を赤く染めながら顔を上げて見つめると、握られていた手が離され両腕でギュッと抱き寄せられた。

「何と愛らしい！このまま家に連れ帰って寝所に連れ込みたくなるではないか！本当に君は俺の……人の喜ぶ言葉を言ってくれる。だからこそ俺も周りの者も自然と君に惹かれてしまうのだろうな」

誰のことを言っているのかには分からない。
だがほんの少し杏寿郎の声音が複雑な想いを含んでいるように感じ、背に回した自らの腕の力を強めた。