第8章 第26章 月と太陽(1874~1878ページ)
その少し前、は一時の感情で2人に対して怒りをぶつけてしまったことを後悔していた。
「こんなつもりでは……どうしましょう。しかも皆さんにもお庭のお掃除をさせてしまって……ますよね。誰も入ってこられませんし」
杏寿郎と実弥がに怒られたことにほっこりし、門下生たちが喜び勇んで掃除を手伝っている事実を知らないは、先ほどとは別の意味で瞳を薄らと涙で潤ませている。
「杏寿郎君は何かしらの覚悟を実弥お兄さんに見られていると仰られていたのに……聞く耳も持たず怒ってしまうなんて。せ、せめて早くお茶とお菓子をお持ちしなくては!……そして謝らなくちゃ」
誰もいない台所でしょぼくれながらも手際良く着々と準備を進めて居間へ次々とお茶とお菓子を運び、庭にいる杏寿郎たちに声を掛けようと障子に手を掛けた……が止まってしまった。
『まさか不死川と好いた女子が同じになるなど夢にも思わなかった』
と杏寿郎の声が聞こえてしまったから。
「実弥お兄さん、好きな方がいらっしゃるのでしょうか?誰かと同じ人を好きになってしまったのかな?聞いてみたいけど……失礼になっちゃいますよね」
鈍いにも程がある。
しかしその鈍さに実弥は救われ、はこうしてはいられないと実弥を元気付けようと菓子を追加しに台所へと戻った。