第2章 春の悪戯(なきさに)
「あたしから誘っておいてごめんね、鳴狐…。 今日散策デート出来なくなっちゃったんだ」
「分かった…じゃあ電話切るよ…」
香澄からの電話に華やいだ心が一瞬にして沈んだ。
『鳴狐、鳴狐大丈夫ですか!?』
「今日会えないってさ…」
(何かしたのか…)
『なんと!? 彼女殿は何か仰られましたか?』
「…理由は聞いてない」
久しぶりのデートと聞いて、狐と共に"いなり寿司"を沢山作って出掛ける準備も済ませて居たがそれも言えずに…。
口下手でいつも話掛けてくれる香澄に甘えてた。
狐が自分の変わりに代弁してくれて居たからだ…。
(――モヤモヤする、こんな気持ち初めてだ)
鳴狐はいなり寿司の重箱を綺麗に包み、出掛ける準備を整える。
『…鳴狐、何処へ行くのですか?』
「待ってても始まらないから、今日は待たない日…行こう、香澄のところへ」
『お供致しますよ』
電車へ乗り最寄り駅まで行き、香澄のマンションへと足を運ぶ、少し気が重い…入れて貰えなかったらどうするか…嫌な事しか想像出来なかった。
インターホンへと手を伸ばしたが、躊躇して押せない鳴狐に対して狐が腕をつたい歩き鼻でインターホンを押した。
「えっ? 鳴狐? なんでここに?」
突然の訪問に驚く香澄。
部屋に入れてもらいソファーに座ると…
「今日会えない訳が知りたくて……俺の事が嫌いになった…?」
「それは違うよ、鳴狐!
最近"くしゃみ"が止まらなくて検査してみたら…あたし花粉症みたいで、散策してたら目が痒くなるし、迷惑かけるって思ったんだ…。
花粉症以外、ダニやハウスダストも反応してて…あたし全然知らなくて…びっくりしちゃった」
香澄が検査をしたと言う診断結果を見てられた。
「本当にそれだけ…??」
「あたしは鳴狐の事が好きだよ、不安にさせてほんとごめんね?」
「暫くこうさせて…落ち着きたいから…」
鳴狐が香澄の肩に顔を埋める。
優しく鳴狐の頭を撫でる。
香澄の太股には狐の姿が…
――あたしは手のかかる"狐"を二人も面倒みないと駄目なの?
それも悪くないけどね…。
…完…