第5章 帰る日とイケメン柱
要が動揺している。
今日は要を連れ、彼女がバスを降ろされた場所に来ている。
元の世界に帰るための手かがりは今の所この場所しかなく、ここに来れば何か分かるかもしれないと思って来てみた。
驚いたことに、彼女がバスを降りたであろう場所には、帰る時を知らせる表示が出ていた。
この場所で、偶然にも要と出会った。
あの日の晩俺は、任務を果たすため自分の担当地域であるこの場所の近くを通りかかった。
柱一人に任された担当地域は広大になる。
俺は異常がないか注意深く鬼の気配を探りつつ、呼吸を使い高速移動しながら警備していた。
暗く人気のないこの場所に、若い娘が立っているのが、離れた場所にいた俺の目に写った。同時に、彼女の側に迫っている鬼の気配も。
急ぎ向かって彼女を庇い、鬼は瞬殺したが間近で全てを見ていた彼女にとっては衝撃以外の何ものでもなかった事だろう。
雑魚鬼ではあったが、鬼に遭遇した人なら誰もがそうなるように、彼女は怯えていた。
震えながら涙を流す姿を見て、胸が痛んだ。
怪我をしているならば、蝶屋敷に運ぶ心づもりだったが、幸い彼女は自分が見てしまった未曾有の出来事に混乱はしているものの、意識もはっきりしていた。
帰る場所がないという彼女の話を聞いた時、常に即断する性分なのも手伝い、自分の家に来るよう言ってしまった。
若い娘を男一人の家に連れて来ようなど無節操なのだが、あの時は他の選択肢がないように思えた。
が、本当の理由はそれだけではなかった。
彼女を一目見た時から心惹かれてしまう自分がいた。
寝食を共にして、物おじしない明るい所や綺麗な笑顔を良いと思っている自分がいる。
気がつくと、いつも彼女の元に戻りたくなる。
そして、昨日彼女を抱きしめた時の、女性らしい柔らかな身体。
胸に宿った炎が大きくなっていくのを感じる。
だが要は元々この世界の人間ではない。
いずれ本来の自分の場所へ戻らねばならないだろう。
彼女が望めば、俺は引き止めるつもりはない。
だが、要はどうなのだろう。
俺は要の側に立ち、動揺する様子を見ていた。