第1章 コスプレ煉獄さん?本物の煉獄さん?
「よし! 」
目の前に並ぶのは焼いて冷ましたクッキー。
このクッキー達に今から、カラフルなアイシングを使って雪だるまやツリーを描いていく。クリスマスシーズン用のアイシングクッキーとして、焼き菓子コーナーに並ぶのだ。
クリスマスを間近に控えた今日、私の働く菓子店の厨房は、戦場さながらの慌ただしさの中にいる。
私は、自分に割り当てられたクッキーの仕上げを早く終わらせようと、気持ちも焦りながら作業していた。
よしっ!!
気合いを入れて、緑色のアイシングでツリーの形を描こうとした時だった。
「あれ?レモンがない!注文し忘れたかな、困った!」
厨房のチーフの大きな声がして、思わず声のした方を見ると、業務用冷蔵庫の扉を開けて困り顔のチーフと目が合う。
皆、聞こえない振りをしている。
「要さん、ごめん!レモン買って来てくれないかな? 」
えっ、私ですか!今、気合いをいれたとこなのにぃ…。
でも、私はこの職場では1番年下。
「はいっ!行ってきますっ」
先輩には逆らえない。元気に言ってコートを羽織り店を出る。
言われた通りに買った15個のレモンが入った袋をブラブラさせながら歩く。あと、何日かでクリスマスだ。
街にはクリスマスソングが流れて、すれ違うカップルが仲良く話しながらコーヒー片手に通り過ぎて行った。
ああ。また今年も彼がいない年末。
今年のクリスマスもケーキを作りながら過ごすのかぁ。
憧れのケーキ屋さんで働きだして3回目のクリスマス。恋人と過ごすクリスマスなんて贅沢は言わない。せめて、分かり合える人がいたなら…。
励まされたり、励ましたりして、頑張れるのにな。
「お疲れ〜」
「お疲れ様でした」
夜も9時を過ぎ、やっと今日の仕事が終わった。7人いる厨房スタッフと別れて家路につく。いつものバス停までの道を歩いた。
人気のない待合室の椅子に、私は倒れるように腰をおろした。
「はあーっ、今日も疲れましたーっ!」
腕をぐいーっと伸ばして、欠伸しながら固まった肩をのばす。
ここから家まではバスで15分程。
帰ったらご飯を食べて、お風呂に入って、漫画を読んで寝よ…。
私は、弟の新太郎が絶対読め!!と言って持ってきた鬼滅の刃を
思い出していた。昨日の夜は確か、7巻の途中まで読みながら寝ちゃたかな?