第11章 throbbing
傑の腕が緩んで、そして私の両肩に手を置いた。
「すまない… レイ…離れろ」
「やだ。」
「離せ…」
「やだ。」
「レイ、戻れ…」
「戻らない。」
「言うことを聞け」
「離さない」
耳元で小さく傑が笑ったのが分かる。
「ふふ……君が私に反抗したのは初めてだな。
今まで君はなんでも私に従順だったのに……」
そう。
出会ってから今までずっと私は傑の言うことを全部聞いて全部従ってきた。
私の人生の中で、傑が絶対で、傑が私の全てだった。
だから……
「なんでも…するから……
傑のためなら…傑の指示なら……
なんでもする……」
人殺しでもなんでもするから。
あなたの言うこと、これからも、なんでも聞くから。
だからっ………
「悪いが私は…空にはなれない…」
「……?……な……」
グッと私を引き剥がそうとする手。
でも私は離さない。離れない。
必死でピッタリとしがみつく。
あなたの全てを逃すまいと。
「私はっ…私の人生にはっ…」
嗚咽でうまく言葉が紡げない。
「すぐっ…すぐるっがっ…
……傑が…必要…なのぉっ…うぅ…っ…」
ギュッと彼の服を掴む。
彼の服は私の涙と鼻水でぐちゃぐちゃになっている。
ひんやりと冷たい感触でわかる。
あなたがいなくちゃ、
私が私でなくなってしまう。
"行こう。君が君でいられる場所へ"
あの時あなたはそう言って私の人生を開いた。
なのになんで…
「ふ…私が居なくても大丈夫だ。
……悟がレイの空になってくれるよ。」
嫌だ。
あなたがいない人生なんて
自分が死んだも同然なの。
苦しい
胸が痛い
息ができない
「なっ…でよ…」
なんでよ
なんで
どうして
認めない。
こんな現実
絶対に認めない。
こんなの…
あんまりだ…
「ーーー!!」
背後で悟の声が聞こえた気がした。