第14章 クランクアップ
長いようで短い夜が明け
ついに
ドラマのクランクアップ当日となった
楽屋を出て
メイク室へと向かう途中で
廊下の向かい側から歩いて来たカヲルを見つけると
チサトは
どこか吹っ切れたような
清々しい笑顔で『おはようございます』と言った
「……おはようございます…」
『………考えてくれましたか?……昨日の話…』
「……」
少しの沈黙の後
カヲルは頷いた
チサトは周りに人目が無いのを確認すると
カヲルの手を引いて空いている楽屋へと入って行った
『………最後の撮影が始まる前に……聞かせてください…』
「……」
『…………カヲルさんの未来に………私を連れて行ってくれますか…?』
眉を寄せて俯いていたカヲルが
静かに口を開いた
「………チサト…………一緒に行くということは………君が今までに努力して築いてきたその立場を…全て捨てることになる…」
『……はい………分かってます…』
「……………俺の新しい仕事が…成功する保証もない…………慣れない土地で…辛い思いをさせてしまうかもしれない…」
『……覚悟はできてます…』
「………っ…本当に……いいのか?………大切なものを全部置いて………俺なんかと…」
『…カヲルさん…』
「……」
『…………昨日も言った通り…………私は……アナタと居られたら…それだけでいいんです…』
「……」
『………ずっと………側に居させてください…』
チサトの心を表すような
曇りのない真っ直ぐな瞳
深く知る程に惹かれていくその瞳を
カヲルは今度こそ
しっかりと腕の中に包んだ
「………チサト…………ありがとう…」
力を少し緩めると
腕の中でチサトがゆっくりと顔を上げる
カヲルは
柔らかな頬に溢れた雫を指先で拭うと
愛しい人の唇にそっと口付けた