第7章 両面宿儺
「何したんですか」
「気絶させたのー。うわっ、重っ」
五条先生は両面宿儺を取り込んだその男子を抱えた。
「これで目覚めた時、宿儺に体を奪われていなかったら、彼には器の可能性がある」
呪いの器。
それは、まるで。
「皆実と同じようにね」
私の思ったことを、五条先生が口にする。
「さて、ここでクエスチョン。彼をどうするべきかな」
五条先生は伏黒くんのほうに顔を向ける。伏黒くんはそれに応えるように口を開いた。
「仮に器だとしても呪術規定にのっとれば虎杖は処刑対象です。でも死なせたくありません」
「……私情?」
「私情です。なんとかしてください」
あの伏黒くんにここまで言わせた。
それくらい、伏黒くんはこの人の人間性を評価してるってこと。
「皆実は?」
五条先生は私のほうを見る。
正直、私はこの人のこと全然知らない。
でもさっき話したとき、この人から悪い感じは全くしなかった。
両面宿儺が受肉したせいか、私に彼自身の呪いが突き刺さることもなかった。
おまけに伏黒くんのお墨付き。
むしろ、私なんかよりよっぽど助ける価値があるんじゃないかって。
「彼が呪いを喰べて処刑なら、呪いを吸ってる私ももれなく処刑しなきゃ筋が通りませんよ」
まあ、私も執行猶予ついてるだけで死刑は決まってるんだけど。
「私はまだ、五条先生に約束守ってもらえてないので死ねません」
五条先生の世界で心の底から笑わせてくれるって。
まあ、今も普通に毎日が楽しいけど。
たぶん私は笑い方を知らないだけなんだけど。
でもそれを言い訳にして。
「だから、彼を助けてくれないと私も困ります」
私のそれも私情。
でもそれを言ったら、五条先生が私を助けた理由も私情だから。
誰かを助ける理由に、正解はないんだと思う。
「かわいい生徒の頼みだ。任せなさい」
たまには先生らしいことを言う五条先生に、少しだけ、ほんの少しだけ笑みが溢れた。