第29章 情⑤
「……っ」
「また、泣いてるし」
いつのまにか戻ってきた五条先生が、後ろから私のことを抱きしめた。
五条先生の手にした水のペットボトルが、私の身体に触れて冷たい。
身震いしたのは、そのせいなの。
「今度は何に泣いてんの? 僕がいなくなって、そんなに嫌だった?」
呆れた声が、それでも私を安心させる。
そばにいてくれるだけで、こんなにも心が落ち着くの。
「……オマエも、寂しんぼか」
誰と一緒にしたのか、私には分からない。
でも五条先生の頭に、私以外の誰かが浮かぶのも嫌なの。
「皆実」
五条先生の、静かな声。
泣いてる私の頭を何度も撫でて。
そして、そのまま……私の頭を横に向かせた。
「……ぅ」
横から現れた五条先生の顔。
触れ合う唇が、悲しいくらいに、私の呪いを奪って。
「……僕と一緒に、北海道へ行こうか」
唐突な提案は、確かな思惑を宿していた。