第15章 自分のために⑤
『悟にイジメられてない?』
「アハハ」
否定しない私に、狗巻先輩が眉を寄せた。
『……何かされたら言って。真希とパンダと一緒に、悟を祓うから』
「五条先生は呪霊じゃないですよ」
(あ……私、今……笑ってる)
2年生の先輩と出会って、もうすぐ1ヶ月が経つ。
たった1ヶ月。
それなのに、先輩たちはみんな優しくて。
3年間一緒に過ごした同級生とも。
10年近く一緒に住んでた祖父母とも。
こんなふうに冗談言って笑ったり。
心配してもらえたり、甘やかしてもらえたり。
何の打算もない会話なんてありえなかったのに。
たった1ヶ月が、こんなにも充実してる。
(……悔しいなあ)
全部、誰かさんのおかげとしか言いようがなくて。
「狗巻先輩」
私が呼ぶと、狗巻先輩は小さく首を傾げる。
「五条先生は意地悪ですけど」
本当に性格悪くて。
いつも私のこと馬鹿にして最低最悪だけど。
『……バカ皆実』
肝心なところで優しくて。
だから五条先生と過ごす日々が……。
「私は、そんなに嫌じゃないみたいです」
言葉にしたら照れ臭くて。
思わずはにかんだら、狗巻先輩も小さく笑ってくれた。
『皆実って意外とMなんだ?』
「……!? ち、違います!」
「皆実ー、もう棘との会話終了ね」
私が取り乱すのと同時、寝室の扉がバーンと開け放たれた。
そして私からスマホを取り上げて。
「あ、ちなみに」
五条先生がスマホの画面を見下ろして告げる。
「皆実はMじゃない。ドMだから」
(余計な訂正……っ!)
ていうか、耳守ってても声は聞こえるんだ。
じゃあさっきのも聞かれたかな。
最悪だ、絶対いじられる。
「じゃ、そっちで頑張って。真希とパンダにもよろしく」
五条先生はプツリと通話を切ると、想像通りに口角をあげてきた。
「皆実」
「お風呂入ってきます!」
「え、お誘い?」
「ちげーよ」
前言撤回。
五条先生と過ごす日々は、うるさすぎて嫌だ。