〖進撃の巨人〗Raison d'etre ─贖罪の贄─
第4章 別離と誓い
母が扉を開けると、そこにはバラのエンブレムの兵服を着た駐屯兵の兵士が立っていた。
母は駐屯兵が家に何の用かと訝しげに兵士に尋ねる。
「夜分に失礼、ここはヴェルナー・ラディウスさんのお宅で間違ってないか?」
「え、えぇ…
主人は今は留守にしてますが…」
「奥さん、ご主人の事で少しお話が─」
兵士は母の足に縋り付く小さな存在に気づき、目を向けると気まずそうにその先の言葉を躊躇う。
それに気付くと母は、奥の部屋に行くようにと娘を促した。
その場の空気がいつもとは違う様子と感じ取ったジルは、大人しく母の指示に従い奥の部屋へと移動する。
移動したジルは、兵士の話が気になり耳を澄ませてみても話の内容までは分からなかった。
ただ、逼迫した母の声が聞こえジルはとてつもなく不安に襲われたのだった。
母と兵士の話は直ぐに終わったのか、ジルの元に戻ってきた母の表情は青ざめたものだった。
「お、お母さ─」
その様子にジルは悪い予感がして母に先程の兵士の話は何だったのか聞こうと、口を開くも母は遮るように娘の名前を呼んだ。
「ジル、お母さん今から少し行かなきゃいけない所があるの。
こんな夜更けだからスミスさんの所にも貴方を預けに行くのは、はばかられるから、怖いと思うけど一人でお母さん帰ってくるまでお留守番できる?」
「お父さんすぐ帰ってくるよね?
お父さん帰ってきたら私一人じゃないよね?」
娘のその言葉に母は何も言えず、ただ娘を抱きしめたのだった。