第8章 姫さん、探し人になる
華音が去った後、四人は継国の男について話を掘り下げる。
「謙信様の御師範の御名は?」
「…継国陽臣」
「はるおみ…」
陽臣と空臣。
どうしても関連性を思わせる名前だ。
「他に何か特徴は覚えていますか?黒髪とか、美少年だったとか」
「………」
20年近く前のことなので、正直顔は朧げである。
もし佐助と幸村が接触した美少年と似ているなら思い出すかもしれないが、美少年は今ここにはいない。
しかし、顔は覚えていなくとも印象は覚えている。
むしろ顔以外なら鮮明なほどだ。
「天女と見紛うかんばせをしていた」
「男なのに?」
「そして天女と言われることを心底嫌っていた」
「そりゃ男なら嫌でしょうよ…」
冗談ではなく、本当に師範は天女のような顔立ちだった。
謙信は今も昔も美しさなどに興味はないが、今まで見た人間で一番美しかったのは誰だと訊かれれば、師範と答えるだろう。
ここまで強く印象に残っているのに、何故顔だけが鮮明に思い出せないのか、謙信はだんだん疑問に思えてきた。
(……ん?天女と言われるのを嫌っていた?)
信玄は、つい先程までここにいた少女のことを思い出した。
少女も己の顔立ちに自覚があるのか無いのかわからないが、天女と言われた時、たしかに声に嫌悪を含ませていた。
少女の姿は町娘や姫君のものではなく、男物の袴だった。
もし仮に、今置かれている立場のように姫君らしく着飾ったら、それこそ天女の姿になるのではないか。
謙信の剣術の師範であり、天女と言われるのを嫌っていた男。
佐助が美少年と言った継国を名乗る少年。
そして、その美少年が探しているのが、天女と言われるのを嫌う少女。
信玄の頭の中では、パズルのピースが嵌め込まれるように情報が巡っていた。