第8章 運命の歯車が動き出す
「おそらく、今までは小娘の心が安定していなかったのではないカネ。そんなことはどうでもいい、面白いことがわかったと言っただろう?」
涅はニヤニヤしながら、小さな小瓶に入った液体を白哉に見せた。
「これは小娘が現れたと言う泉の水だヨ。たまたま検査中に小娘の近くにあったら、これに反応したんだヨ!」
これはすごいことだ!と叫ぶ涅に、白哉は眉をひそめて内心で首を傾げた。
美穂子はもともと、泉から現れたのだ。
何らかの反応を示しても、おかしくはないだろうと思う。
涅は白哉の反応に、イライラしながらため息をついた。
「わからないのかネ?あの小娘は、泉の力―…いや、正確には泉に宿っている水神の力を拠り所にこの世界に留まっていると言うことだ」
「水神?」
「あぁ、そうだヨ。おそらく小娘は―…何らかの加護を受けたのだろうヨ」
「―…そんなことが、ありえるのか」
五大元素は通常、人に宿らない。
死神の斬魄刀も、世界に存在する元素の一片を移し身として扱うが…それすらも人には余る力を持つ。
故に、斬魄刀の中には主をかなり選ぶものもいる。
白哉が知る限り、冬獅郎などいい例だ。
彼の持つ斬魄刀・氷輪丸は元素の一片を操る斬魄刀故に、強大な力を持っているのだ。
彼ほどの実力者でも、その力を容易に御せないというのに。
「ありえるから、小娘はこの世界に留まっているのだろう。まぁ、どこまでそれが続くかは未知数だがネ。とりあえず、カラクリの一端は見えてきたのだから、また私のところに通わせるといい。暇つぶしにもう少し調べてあげよう」
「―…検討しよう」
白哉の言葉に、涅はにやりと笑うと、その場を立ち去った。
白哉はその後姿を見て、視線を空へと向けた。
(加護が消えれば―…美穂子はいなくなってしまうのか?)
白哉の中で―…それは、大きな不安となっていくのが、わかった。
帰ったら、美穂子とあの泉に行こうか。
何かわかるかもしれない。
「―……」
白哉は六番隊へ向かって足を踏み出した。
言い難い…不安を胸に。