第2章 世界反転
コポ…。
耳に泡のような音が聞こえた。
―…どこ。
美穂子は少し暖かい何かが自分を包み込む感覚に、意識が浮上するのを感じた。
身体に重力を感じないような―…まるで、水の中のような。
開いた瞳の先には―…光が見えた。
まるで、海の中から見た月明かりのような光が、ぼんやりと見える。
口を開こうとして、口の中に流れ込む水に驚く。
目をぱちぱちとすれば、目に違和感。
―…どうやら、最初に感じた感覚は正しかったようだ。
なぜこんなところにいるのだろう、と一瞬考えて美穂子は眉を顰めて首を振って頭上を見上げる。
先ほど見えた月明かりが見えた。
こちらもどうやら、夢ではないらしい。
「…っ(とりあえず、ここじゃ息が続かないし―…あがろう)」
美穂子は足をぐんっと伸ばして一気に上へと進む。
思いのほか軽く感じるのは、普段からプールで泳いでいるからだろうか。
美穂子の少ない趣味の一つは泳ぐこと。
仕事が早く終われば、スポーツジムで100mのプールを何往復も泳いでいた。
おかげで、なんだかわからない―…ある意味パニック状態でも泳ぐことはできた。
ぐんぐんと近づいてくる光に、美穂子は一層強く思いながら手を伸ばす。
あの先に―…何があるのだろうか。
そんな不安と共に、どこか―…安堵も感じたのは気のせいだろうか。