第1章 unlucky men
Sside
何か変だな、って思ったのは、去年の秋ぐらいだった。
今はもう年明けて少し経ったから、そろそろ4か月はニノのことを放置してしまっていたことになる。
自分でも、なんで今まで声を掛けられなかったんだろうか、と思ってしまう。
俺もニノも忙しいから、とか、勘違いだと思ったから、とか理由はいくらでも付けられるけれど、そのどれもが嘘っぽくて。
だから今は、激しい自己嫌悪に襲われている。
知ってしまった。
俺は一番奥の個室にいた。
デスマッチのご飯を食べすぎて腹を壊したのか、10分くらい、そこに蹲るようにして微妙な痛みに耐えていた。調子に乗って食べすぎたことを、心の底から反省しつつ。
そうしたら、トイレのドアがガチャリと開く音がして、男だし、詳しくは言わないけれどすぐ戻っていくと思っていたら、その音の主は多分俺の2つ隣の個室に入っていった。
スタジオで個室のトイレを使うなんて、俺みたいに腹を壊した人くらいだから、この人もそうなのかと若干の興味をそそられた結果、耳をこっそり澄ましてみた。
それが間違っていたのか、正しかったのか。
俺の耳に届いたのは、微かな嗚咽と、ビシャビシャという不快な水音だった。
吐いているのだろうと分かった。瞬時に緊張が走る。
これは、誰なんだろうか?
ただ単に、体調を崩しただけの人であってほしかった。
車酔いしたスタッフさんとか。
風邪気味のマネージャーさんとか。
そうであればどれほど良かったのだろうと切に願うが、心の片隅に、歪んだ予感がした。
どこかで、意識の歯車が、噛み合ったような。