第3章 8年後
マンションに戻り
鍵を開けると
リンは真っ直ぐに自分の部屋へと行ってしまった
ドアが閉まる大きな音を薄暗い玄関で聞いたセツナは
ひとつため息をついた
キッチンへ行き
ウォッカのボトルとグラスを取り出すと
明かりの消えたリビングの窓際のソファに座った
リンが夜遊びを始めたのは
いつからだったか
亮二にも言われたが
ただの反抗期とか
そういう問題ではないだろう
もっと根本的な解決を求めて
ボスにも何度も相談させてもらった
けれど
ボスはその度に
「別々に暮らすのはリンを魅音から守るためだ」と言って
彼女を自宅に戻す事を拒むのだった
リンが求めているのは
家族の温もりだった
母親を亡くし
父親までも失うには
彼女は幼すぎた
意地を張って
強がってはいても
まだ
ほんの子供なのだ
グラスをあおり
顔を上げると
真っ暗な夜空に三日月が浮いていた
空の月までが
自分の無力さを嘲笑っているように見えて
セツナはまたひとつため息をついた