第2章 5年後
元々身体の弱かった母親を病気で亡くしてから
1年が経った
母親の葬儀を終えて間もなく
父親はリンの母親がわりになればと
ひとりの若い女を家に連れてきた
魅音と名乗ったその女は
表裏が激しい性格だった
人目のある所ではリンを非常に可愛がるのだが
誰も見ていない所ではとても冷たく接した
そんな魅音に
リンが懐くはずはなかった
そして3ヶ月前
魅音の妊娠が分かった
辰彦との間の子供だった
喜んだ辰彦は
すぐに魅音と籍を入れた
母親を亡くしてから
父と過ごす機会があまりなかったリンは
誕生日の朝
「ふたりで出掛けるから支度をするように」と言われ
とても嬉しかった
着いたのは
とあるマンションの前
そこには
セツナが立っていた
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セツナは辰彦の側近のひとりで
沢村亮二が特に目を掛けている男だった
まだ10代の頃
移民同士の争い事に巻き込まれ死にかけているところを
亮二に拾われた
一命を取りとめたセツナは
後に暁辰会へ入り
辰彦と亮二に忠誠を誓ったのだった
リンが赤ん坊の頃から
アランを連れた亮二と共に暁の屋敷を訪ねては
幼い2人の遊び相手になってくれた
リンは幼い頃から
とてもセツナに懐いていた
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車を降りたリンの背後で
ドアの閉まる音がした
リンが不思議そうに振り返ると
リムジンの窓が開いた
「…リン……お前は今日からここで暮らすんだ……生活の面倒は…このセツナがみてくれる…」
父親は前を向いたまま
静かな声でそう言った
走り去るリムジンを
リンはただボンヤリと見ていた
名前を呼ばれ
見上げると
悲しそうに微笑んだセツナが手を差し伸べていた
『……』
リンは指を伸ばし
目の前の大きな手をそっと握った