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イケメン戦国/お殿様!って言わないで

第59章 傾国美女(けいこくのびじょ)


朝倉義景と浅井長政の謀反は、義景の自死という苦い結末を迎えた。

救いは、同時期に起きた毒薬騒ぎで、命を落とす者がいなかった事だろう。

輸血後に生気を取り戻した帰蝶は、安土城の城内にある摠見寺(そうけんじ)で過ごしている。

謀反の疑いがある為、囚われていると言った方が近いかもしれないが。




『はぁ。』

ひなが小さく溜息を吐く。

(なんだかんだドタバタしてる間に、もう年の瀬になっちゃった。

この時代には、もちろんクリスマスなんてないし、年末年始は、久し振りにゆっくり過ごせそうだな。)

読んでいた書物を閉じ、そっと障子を開くと、庭の木々が寒そうに木枯らしに揺れていた。


『あ、ひなさまー!』

『蘭丸くん?』

廊下の向こうから元気に走って来た蘭丸が、がしっ!とひなに抱きついた。


『少し振り!』

『わっ!ふふっ。そうだね、少し振り。』


朝倉・浅井との戦(いくさ)後のこと。

信長は、元就の代わりに武器を運んで来た顕如に対し、礼だと言って本願寺再興に力を貸す旨を申し出た。

顕如もそれを受け入れた為、廃れていた本願寺は元の姿に戻りつつあるらしい。

蘭丸も顕如と共に戻ったのだが、時間を見つけては、こうしてちょこちょこ ひなに会いに来ていた。

『本願寺も、だいぶ綺麗になってきたよ。今度、ひなさまも遊びにおいでよ。

顕如さまも待ってるから。』

『うん!必ず行くよ。』

大きく頷くと、蘭丸が満面の笑みを浮かべる。

ひとまず、信長と顕如の争いは落ち着きを取り戻した。

(またいつ遺恨の燃え殻に火が着くか解らない。

それでも、こうして蘭丸くんが心から笑ってくれるのは嬉しいな。)

『あ、そうだ。さっき手紙を配ってた女中さんから、ひなさまに渡してくれって預かったよ。』

蘭丸は大事そうに胸元から書簡を取り出す。

『はい、これ。』

『ありがとう。』

蘭丸から渡された手紙の裏を見る。

『あっ、お市さまからだ!』

『お市さまって、信長さまの妹君の?』

『うん。まだお会いしたことは無いんだけどね。』

ひなが信長の義妹(ぎまい)になった事を、信長が市にも知らせ、こうして手紙をやりあう仲になった。

(昔で言うところの「ペンフレンド」ってやつだよね、これ。)
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