第52章 波打つグルーヴ【渋谷事変】
「伏黒君、君だけ残るなんてことはナシですよ?」
「命は懸けても、捨てる気はありません」
言い含めるように言うと、伏黒は震える詞織を見て、キッと眼差しを鋭くする。
この場を取り繕うための言葉――ではなさそうだな。表情から見ても間違いなく本心。
「詩音さんは?」
「気にしなくていい。タイミングを見て、わたしのところに戻ってくる」
それを聞き、七海は「二人とも!」と声を張った。
「――集合!」
言語を解する敵。だから端的に、そして婉曲に伝える。信頼関係からか、その意図はすぐに伝わった。
弾けるようにして真希と直毘人が身を翻し、七海の元へと集まってくる。
『領域を展開する少年と少女の守りを固めるつもりか。こちらとしても まとまって――』
呟く陀艮の言葉が不自然に止まった。
『まさか……⁉』
陀艮が真希と直毘人を追いかけるべく動き出す。
バレたのか⁉ だが、ここには彼女が――……。
『【縛鎖】!』
期待通り、詩音が漆黒の鎖を伸ばし、陀艮を縛り上げた。
『あたしは置いてけぼり? つれないわね』
艶やかに微笑む詩音に、陀艮が奥歯を噛み締める。
『この程度で私の動きを封じたつもりか⁉』
ビシッと鎖にひびが入り、砕け散った。
『あらあら。そんなに怒らないで。赤い顔がもっと赤くなっちゃうわ』
挑発する詩音に陀艮の意識が集中している。今がチャンスだ。
「伏黒君の足元へ!」
伏黒の足元で、波打つ影が穴を広げた。そこには、先ほどまでいた駅の景色が覗く。
順番にその穴へ飛び込もうとして、誰からともなく動きを止め、目を見開いた。ヌッと人の手が穴から伸び、鋭い目つきと口元に傷を持つ男が出現する。
――禪院家の【呪い】を継いで生まれた者。
――その【呪い】を捨てきれなかった者。
――彼らは目の当たりにする。
――全てを捨て去った者の剥き出しの肉体、その躍動を。
* * *