第43章 それはとんでもないトロイメライ【呪術廻戦0】
「あれ、七海さん?」
星良がバスを降りると、見知った後ろ姿を見つけた。
大好きな人の後ろ姿を見間違えるはずもない。
彼もこちらに気づき、「お疲れさまです」と声をかけてくれる。
「偶然ですね。任務帰りですか?」
「えぇ。想定より早く任務が片づきました。星良さんも任務で?」
―― 一級呪術師 七海 建人
「はい。これから灰原さんと合流する予定なんです。なんでも、パフェの美味しいお店があるとかで」
「灰原と……?」
初めて会った日から、灰原とは頻繁に連絡を取り合い、たまに一緒に出かけることもある。
星良は長女で、双子とはいえ、星也は弟。
本来 上の兄姉はいないが、灰原のことは兄のように慕っている。灰原も妹がいるからか面倒見が良く、妹のように可愛がってくれている。数少ない、星良が素直に甘えられる人間だ。
反対に七海が連絡をくれることはなく、いつも星良から連絡をしている。時おり買い物につき合ってくれることもあるが、七海は一級術師ということもあり、常に忙しくしている。
それでも、もっと連絡を取り合いたいというのはワガママだろうか。灰原はもっと積極的にいったっていいと言ってくれるが……こうも素っ気なくされると不安になってしまう。
「灰原とは、よく出かけるんですか?」
「そうですね。予定が合ったときにたまに。カフェに行ったり、映画に行ったり……」
先月は近場に新しくオープンした水族館に連れて行ってもらった。このときは詞織と伏黒も一緒だったな。
任務帰りで待ち合わせるときは二人だが、非番で待ち合わせるときは、だいたい詞織や伏黒、津美紀が一緒だ。
けれど、それはあえて言わない。
そうですか、と頷く七海の眉間のしわがいつもより深い。嫉妬……だろうか。自惚れかもしれないが。
嫌われてはいない。こういう反応を見ると、少なからず好意を持たれているのではないかと錯覚してしまいそうだ。
七海の服の裾を引き、星良は七海を呼んだ。