第29章 追憶のバラッド【起首雷同】
不良たちが重なってうずたかく積まれた山の頂きに腰かけ、伏黒は深くため息を吐いた。
「他人と関わる上での最低限のルール、分かるか?」
――浦見東中学二年 伏黒 恵
伏黒の問いに、折り重なった不良の一人が「……分かりません」と小さく答える。
「『私はアナタを殺しません。だからアナタも私を殺さないで下さい』だ」
『殺し』を何に置き換えてもいい。要は相手の尊厳を脅かさない線引き。互いの実在を成す過程、それがルールだ。
それを破って威張って、腫れ物みたいに扱われて、さぞ居心地よかったことだろう。
伏黒は手近にいた不良の頭を掴み、こちらを見上げさせる。
「今後一切、神ノ原 詞織に近づくな。名前を呼ぶな、口を利くな、見るな、触れるな、同じ空気を吸うな。出来ないならここで死ね」
「……ず、ずみばぜん……」
「こっちは何年も手出せずに苛ついてんのに、ポッと出のオマエが俺から詞織を奪おうとしてんじゃねぇよ。勝手に告って、勝手に振られれて……逆上して詞織を殴って……それから“何しようとした”……?」
脳裏に腫れた頬と引き裂かれた制服姿の詞織が過り、伏黒は不良の首を捻り上げる。
「もうしません! 近づきません! 本当です! 許して下さいッ‼︎」
伏黒は不良を放り投げ、積まれた不良の山を踏みつけながら地面に下りた。
「次、やったら殺す」
そのまま立ち去ろうとすると、下の方にいた不良が小さく呻き声を上げる。
「……こんなの、いくらなんでもやりすぎだろ……」
伏黒はすぐに引き返し、その不良の頭を踏みつけた。
「……殺さないでやったんだよ。寛大だろうが。死にたいならそう言え」
そこへ、校務員の武田の「コラー!」という声が聞こえ、伏黒は説教を聞く前にその場を後にした。
・
・
・