第22章 終わらないロンド【黒閃】
「止めろ、虎杖! そいつは俺たちでどうこう――……ゲホッゲホッ!」
最後まで言い切るより前に伏黒が咳き込むと、東堂が「パンダ」と呼んだ。
「あいよ」
ヌッと現れたパンダが東堂から真希を受け取り、米俵のように肩に担ぐ。
「詞織、大丈夫か?」
パンダに呼ばれ、詞織は「ヘーキ」と微かに頷いた。
「ほとんど打身だから――……【君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかな】」
詞織が一首詠むと、すぅ…と傷が薄くなる。
「【反転術式】……詞織、オマエ……」
「驚いたな。【反転術式】が使えるとは……」
目を見張る伏黒と東堂の言葉に答えず、詞織がふらりとこちらへ来た。
もしかしたら、詞織の【反転術式】は未完成なのかもしれない。よく見れば、少女の傷口は完全に治癒してはおらず、まだ血が滲んでいる。
「パンダ、三人を連れて【帳】を出ろ。教師から報告を受けた西宮が言うには、この【帳】は対五条 悟用で、俺たちは問題なく出入りできる」
東堂とパンダの会話から察し、伏黒は詞織に支えられながら声を上げた。
「待て! いくらアンタでも……」
東堂はパンダに自分たちを連れて【帳】を出るように言ったが、そこに東堂と虎杖は入っていない。
まさか、特級呪霊と戦うつもりなのか?
加茂を戦闘不能にし、狗巻の喉を潰し、自分と真希と詞織の三人がかりで手も足も出なかった相手と。
「ユージ……」
「伏黒、詞織。大丈夫」
虎杖の表情に、少年院の出来事が重なる。
けれど――何を言われても揺るがない強い意志、詞織と同じ力強い光を宿した瞳……あのときとは違う表情だ。
「気づいたようだな。羽化を始めた者に何人(なんぴと)も触れることは許されない。虎杖は今そういう状態だ」
東堂の言葉に伏黒はギリッと奥歯を噛み締める。そんな伏黒の服を強く握りしめ、詞織が「ユージ!」と虎杖に呼びかけた。