第21章 唐突に現れたディソナンス【京都校交流会―団体戦―〜呪具】
森を流れる川のほとりで、特級呪具【游雲】の攻撃をまともに喰らった呪霊が、ゆっくりと身体を起こす。その様子を、伏黒は森の木陰に姿を隠して見ていた。
手を組み合わせ、犬の影絵を作る。
――【玉犬 渾】
【拡張術式 不知井底(せいていしらず)】を除いた伏黒の十種の式神は、完全に破壊された場合、二度と顕現することはできない。
しかし、破壊された式神の遺した術式と力は、他の式神に引き継がれる。
【玉犬 渾】は、【白い玉犬】の力を引き継いだ【黒い玉犬】だ。
呼び出された【渾】が二足歩行で呪霊に迫り、前足の鋭いで呪霊へ襲い掛かる。【游雲】で負った傷へ、畳み掛けるようにさらなる傷を刻む。
こちらの姿は見えていないはず。完全な奇襲だ。
『《速い……術師の少年は森の中……》』
真希が、伏黒の持っていた黒い刀を振り下ろす。
それに気を取られている隙に、伏黒は真希が使っていた【游雲】で畳みかけた。
「真希さん!」
持っていた刀を真希に投げると、意図を察した真希が【游雲】を伏黒へ投げる。互いにそれを受け取り、呪霊へ強烈な一撃を叩きつけた。
二人分の衝撃に呪霊が膝を折る。
「二度と三節棍なんて使わせないで下さい。扱いづらい!」
「慣れると便利――……」
そこまで言って、真希が目を剥いた。
「恵!」
伏黒の腹部から樹木の芽が生え、同時に伏黒は血を吐き出す。その樹木が鋭く伸び、真希の肩を貫いた。
「真希さん!」
自分がしくじったせいで真希が傷を負った。
そのことに内心で舌打ちし、強い焦燥感に駆られる伏黒が可笑しいのか。芽は裂けた口から『ナハッ』と声を上げる。