第3章 夢の中の住人
「もう! 本当にびっくりしたんだからね!」
「ご、ごめん……」
翌日の夜、何事もなかったかのようにいつも通りにやって来たリドルに拍子抜けしたものの、とくに目立った外傷もなく安心した。
どうやら、なぜ大穴が家を囲むように開いているのか、アリスにもわからないようだ。彼女がここに来たときにはすでに穴は開いていて、飛び込む勇気はなかったので今まで放置という形になっていたらしい。
「でもあなたが無事でよかったぁ。もう会えないかと思っちゃった」
「さすがに夢の中では死なないだろう。……多分」
明るく振る舞ってはいるが、大穴に落ちた時はさすがに肝を冷やした。
アリスも同じだったらしく、顔を合わせたときは泣きそうになっていたほどだ。
その詫びも兼ねて、今日は彼女のお願い事を聞いてサッカーを教えている。
とはいえ、外には出られないので庭でやっているが、さすがにドリブルできるほどの広さはない。リフティングが精一杯だ。
それでも彼女は、楽しげにボールを蹴っている。
「アリスはサッカーやってたのかい?」
「ううん。でも一人でボール蹴って遊んでたから、このくらいは余裕だよ」
彼女は意外にもボールを上に蹴り上げる力加減と落ちてきたボールの芯を蹴るのが上手かった。
見た目はお淑やかで可憐な少女だが、意外にも活発な一面もあるようだ。
「アリスはどこでケーキ作りを学んだんだい?」
「友達の家がね、ケーキ屋さんなんだ。そこのケーキ食べたらすっっごく美味しくって! わたしにも作り方教えて下さいって頼んだの」
「へぇ……そこからずっとケーキ作りの勉強を?」
「うん! 友達のお兄さんがよく教えてくれたの。お菓子作りには体力も必要だって言ってサッカーやってたから、わたしも真似してサッカー始めたんだ」
「なるほど、それでサッカーを………ん?」
「どうしたの?」
「あ、いや、なんでもない」
何かひっかかるが、すぐには思い出せそうになかった。
リドルの様子に首を傾げながら、ボールを蹴っていたアリスの体がぐらりと傾いた。
「わわっ!」
「危ないッ!」
一本足で立っているのに疲れてきたのだろう。
リドルは慌てて倒れかけた彼女を抱きとめることに成功した。