第10章 変化
「あれ?なまえは?」
教室を覗いた五条が、いつものクラスメイトが一人かけていることに気づき、首を傾げる。
進級し、2年生になった4人は、教室は変わったものの、元々一クラスなので、クラス替えなどあるわけがなく。相変わらず、同じメンバーで訓練や授業を受けていた。
親友の問いかけに、夏油はああ、と自分たちが一年生だった時の教室がある方角を指で示す。
「いつものとこ行ってる」
「またかよ」
あからさまに、五条の機嫌が悪くなって、夏油と硝子が目を合わせて首をすくめる。またかよ、と彼が言うほど頻繁な訳ではないが、そもそもその目的が彼の不機嫌の理由だ。
教室に入り、乱暴に椅子をひいて自分の席に着くと、行儀悪く背もたれに寄りかかって、頭の後ろで手を組む。
「あーあ、なに一年にいいように使われてんだか」
「そう言うな悟。面倒見がいいんだよ、なまえは」
「面倒見〜?浮かれてるだけだろ」
夏油も硝子も、五条が不機嫌になる理由を分かっているからこそ、彼の刺々しい言葉に対してあまり諌めることができない。
そもそも、なまえは本当に浮かれていた。
進級し、新しくできた後輩という存在。性格も明るく元気な子と、丁寧で几帳面な子の2人だ。「みょうじ先輩」と、呼ばれただけで彼女は、弟ができたような浮かれっぷりを見せた。
進んで一年生の訓練に付き合い、分からないことがあると言われれば、時間を見つけてわざわざ一年生の教室に出向いて教えに行っていた。その行動は、特に常軌を逸している様子はなく、あくまで自分の時間の都合がつく範囲だ。担任の夜蛾もそれについては好意的に捉えており、むしろ彼女に一年生の特別講師を頼むこともあった。夏油と硝子も、なまえの嬉しそうなその様子を微笑ましく見ていたのだが。
面白くなかったのは五条だ。いくら後輩とはいえ、男二人のために時間を割くなまえに、苛立ちを隠す様子もなかった。
どうすると目で会話する夏油と硝子だったが、答えが出る前に、ガラリと教室のドアが開いた。