第15章 差異
ふと、首の後ろ。
引っ張られるような感覚に違和感を感じ、振り返れば、見慣れた同級生の後ろ姿が弾むようにして逃げていくところだった。
その様子からは、嫌な想像しか浮かばない。思わず眉が寄れば、ふふっとすぐ近くで柔らかい笑い声が聞こえた。
『ふふふ…あ、ごめんね、七海』
笑っちゃったと、柔らかい表情をその顔に乗せる彼女。本当は大口で笑いたいだろう彼女は、私達後輩の前では、どこか格好つけたがる。もう、彼女自身の同級生達とくだけて接するところを実は何度も目にしているのだが。
あのね、とまだ笑いから抜け出せない表情のまま、彼女はスッとこちらへと手を伸ばす。その手は、先程違和感を感じた首の後ろ側に触れて、すぐにまた彼女の顔の前に戻される。
その指先には、ピンクの花弁が揺れていた。
『灰原がね、七海が担いでる呪具のとこにこれ、いっぱい並べてたよ』
『みょうじ先輩!教えちゃダメですよ!』
離れたところから、笑いを堪え切れていない、底抜けに明るい声が響く。
促されるように首の後ろ側へと、右手を回してみれば、指先に柔らかい花弁がいくつか触れた感覚があった。
子供みたいな悪戯をする同級生に、苦言を呈そうとして。
「七海さん、着きましたよ」
あっさりと、意識は覚醒する。
戸惑うこともなく、右手で、少しだけサングラスの位置を確認した。
七海へと声をかけた補助監督は、運転席に座ったまま、首だけで振り返った。
「珍しいですね。お疲れでしたか?」
「ええ。疲れてますよ。いつものことです」
確かに車の中で寝てしまうことはほとんどないが、疲労はいつも特に変わらない。
少し前まで眠っていたとは思えないほどしっかりとした動きで、車から出た彼は、任務完了の報告をすべく、足早に高専の校舎へと歩き出す。
随分、懐かしい夢をみた。