第14章 高専
「医務室で話してた時、緊張してなかった?」
緊張?
ようやくその内容が理解できて、首を傾げる。
してただろうか。そりゃあしてただろう。だって色々と検査をしていたのだから。
でも、硝子に、と問われれば。普段なら笑い飛ばしているような質問に、少し考えてしまう。
思い出す、11年後の硝子。
なまえが知っている彼女より、髪もずいぶん伸びて、顔立ちはすっかり大人のそれだった。目の下に、クマもできていた。話し方も、話す内容も、以前馬鹿ばかりしていたそれとは違った。
あまりにも大人のお姉さんになっていて、目の前の彼女が硝子だと理解はしているのに、話せば話すほど、自分の中の硝子と中々重ならなくて、少し、どう接すればいいのか悩んだ。
それが、側から見たら緊張しているように映ったのかもしれない。
「緊張はしてないけど…硝子がすごく綺麗な大人の女性になっててびっくりはした、かな」
「へー。僕は?」
「中身が子供すぎてビックリした」
「ビンタとシッペ、どっちがいい?」
「意義あり!今のは完全に悟さんが自分でフラグ立ててました!」
僕は?なんて聞かれたら、完全に誘導されているとしか思えない。
右手を高く上げて異議申し立てしながら、改めて、悟を見る。彼だって、童顔とはいえ、やはり学生のそれとは違う。一人称だって「僕」になってるし、話し方も柔らかい。
何より、黒いアイマスクが不審者感を割増している。
(でもやっぱ、中身は悟だよなぁ…)
この11年後の世界では、誰より長い時間一緒にいるから。慣れというのもあるのかもしれない。
(…そっか。やっぱり慣れだよね)
硝子は硝子なんだから。関わっていれば、すぐに慣れる。そして以前みたいに話せるはずだ。
納得して、そして、あれ?と何かが引っかかる。
『慣れ』って、私、前もどこかで…
「次は服屋ね」
「うぇっ、お、お世話になります」
少し考えれば思い出しそうだったそれは、すぐに霧散した。
未だ、ここにきて日の浅いなまえは、取り巻く環境の変化に、そうは見えずとも必死だった。訳の分からない焦りだったり、不安だってもちろんある。
だから、忘れた訳じゃないのに、見逃してしまう。
『慣れ』なんて言葉で。都合良く目を逸らした現実が、いつか自分を蝕むことを。
痛いほど、感じたはずだったのに。