第14章 高専
「…涙の再会なんて、僕の時はなかったのに、ズルくない?」
「いや、悟の時は11年経ってるって知らなかったから」
拗ねているのか、可愛いなと思いながら、なまえは顔に残る涙を、左手の袖で拭い取る。
腕の中にいたなまえを無理矢理引き剥がされた家入は、どこか不機嫌そうに、視線を突然現れた五条へと向けた。
「五条、どういうこと?」
「んー、とりあえずなまえは本物。体も記憶も当時のまま、生きてる」
「マジか」
「確証ないのに抱き締めるって、硝子もやるよね」
話す2人を、交互に見る。
こうやって見ると、あまり変わっていないと思っていた悟もちゃんと大人で、大人にしか見えない硝子と話す姿はなんというのだろうか。普通に、大人同士の会話にしか見えない。それは、当然のはずなのだけど。
一方で、展開に付いていけないのは居合わせてしまった二年生達だ。家入のことだけでも驚きであったのに、普段から飄々として、その感情が読み取れない五条が、苛立ちを露わに現れたのだ。
苛立ちはすぐに消えたとはいえ、見知らぬ生徒に対する彼の態度は、素の姿とでもいうのだろうか。明らかに3人が知る五条悟という人間とは違っていた。
「なまえって、悟達と知り合いなのか?」
なまえの方を見てそう言ったパンダに、なんと答えればよいのかと彼女は口籠る。答える前に、なまえの背後から五条が覆い被さるようにして肩を組み、彼女の横から顔を出した。
「なまえは僕らの同級生だよ」
「いや、それは無理あんだろ」
思わず突っ込んだ真希に全く動じず、「ホントだよー。ね、硝子」と話を振った五条に、彼とは違う常識人であるはずの家入も「まぁね」と彼の言葉を肯定する。
それに、は?と頭に疑問符を浮かべた3人は、もう一度視線を、五条に首の後ろから覆い被さるように腕をかけられて、重そうにしているなまえへと向ける。目があった彼女は、困ったような笑顔を浮かべ、それから、気まずそうに頷いてみせた。
ポカンと、口を半開きにした彼女達は、我に返って「はぁっ!?」と驚愕の声を上げる。