第3章 出会い
そんな杏寿郎の心の内など露知らず、更紗は杏寿郎の手を取る。
「私、本当に幸せ者です。柱として忙しい杏寿郎さんに鍛錬をして貰え、その杏寿郎さんも千寿郎さんもご当主様も皆さん、すごく優しくて、ここに来てまだ2日目ですが本当にこのお家が好きになりました。このご縁を作ってくれた杏寿郎さんには、感謝しても感謝し切れないです」
せっかく杏寿郎は踏み込まずにしまい込んだ所であったのに、その蓋が外れてしまった。
気付いてはいけない自分の感情に気付いてしまった。
(俺は更紗の事が好きなのだ……)
「ありがとうございます」
最上級の笑顔(杏寿郎にとって)を向けられ目眩がする。
「こちらこそ……ありがとう……?」
杏寿郎自身でも支離滅裂だと後悔する返事をしたと焦っているようだが、更紗が特に不審に思っている素振りはなく、ただただお馴染みの笑顔をしている。
(今までこんな事は1度もなかったのに不思議なものだ。ふむ、どうしたものか)
炎柱 煉獄杏寿郎 19歳にして初めて春を知る。
そこへ千寿郎の足音が聞こえたので、自然を装い更紗と手を離す。
心頭滅却、心頭滅却と呟きながら、更紗との出会いに感謝をしながら。