第9章 風柱と那田蜘蛛山
外へ足を踏み出した瞬間、杏寿郎は神経を研ぎ澄まし辺りへの警戒を強めながら移動を始めた。
右手は常に日輪刀の柄へ当てられ、いつでも抜刀出来る状態だ。
それに倣い更紗も柄へ手をあてがい辺りを見回すも、今は近くに差し迫った危険はないようにうつる。
「胡蝶が家で待機してくれてるとはいえ、不要な怪我を作るな。奴は更紗の血を狙っているからな」
「血……かしこまりました。あの!鬼に関してお伝えしてもよろしいですか?」
警戒しながら走りつつ会話を繰り広げるのは更紗にとって簡単なことではないが、先程鬼はいきなり出現したので話していた方がいいと判断しての結果だ。
「今か?……1度止まるぞ」
更紗の状況を見て杏寿郎は立ち止まり耳を傾ける。
それに感謝しながら、槇寿郎に話した内容と同じ事を杏寿郎に伝えると表情を僅かに険しくした。
「その綺麗な女性の存在がなんとも不気味だな。鬼を運搬出来る鬼がいるのか……?ふむ……取り敢えず警戒を怠らぬように移動するぞ。君への執念を考えると今が1番……走れ!」
突如杏寿郎に腕を引かれ、そのままの勢いを保ち更紗は指示通り全力で走り出す。
ほぼ同時に2人は抜刀したが、杏寿郎は何もないところへ即座に刀を振り見えないものを弾き飛ばした。