第23章 上弦と力
くぐもった涙声が皆の耳に聞こえると、後は目の前の少女が誰より恋い慕う者の出番だと言うように、それぞれが更紗の体から離れていった。
「杏寿郎君。私、凄く眠いけど凄く嬉しい。皆さん……生きてくれています。鬼殺隊に……入れてよかった」
まるで死ぬ間際に呟くような言葉を吐く更紗の体を自分へと向き直らせ、自らの胸元へ優しく誘っていく。
「不吉な言葉を言わないでくれ。疲れたのならば眠って構わない、俺が運んでやる。鬼舞辻戦に備えて体を」
「それはいけません!眠い……けど、睡眠不足からくる眠気ではなく……貧血によるものなので……あの、どなたか私の鞄から造血薬を1本取ってください……ませんか?」
気を緩めればすぐ目を閉じてしまいそうな更紗には、手を鞄に持っていくことすらままならない。
その解決策として出した言葉だったのだが……誰もその場から動こうとせず、更紗が眠りに落ちるのを待っているかのようだ。
「あのぉ……どなたか造血薬を……このままじゃ本当に寝ちゃいそうなの。杏寿郎君……取って?」
「先に腕の傷を治しなさい。話はそこからだ」
穏やかで優しい声音は今の更紗にとって子守唄に等しい。