第3章 悲しみよりもっと大事なこと
腹に空いた穴から、命が流れ出ていくのを感じる
浅くなる呼吸を鎮めながら、
目の前で泣きじゃくる竈門少年に言葉を託した
「俺がここで死ぬことは気にするな。」
そんなに泣いたら呼吸が乱れるぞ。
大丈夫だ。君はもっともっと強くなる。
「俺は信じる。君たちを、信じる。」
鬼殺隊の柱として、
己の責務を全うすることがすべてだと思っていた
後悔はない。
だが今
生きていたいと、心から思う
千聡と子供と手を繋いで散歩をしたい
美味い焼き芋の焼き方を教えてやりたい
布団を並べて家族で眠りたい
『帰りを待っている』と言ってくれた
君は、泣くだろうか
涙を拭いてやることも
震える背を抱きしめてやることも
もう
「…妻に…伝えてほしいことがある」
俺のことなど忘れて他の男と幸せに暮らせ
と、言えたら良かったのだろうか
…どうか、忘れないでくれ。
君を愛していることを
生まれてくる子供を愛していることを
いつまでも君たちの笑顔を、願っていることを
『弱き人を助けることは、強く生まれた者の責務です。』
…母上、貴女もこんな思いを抱いていらしたのですか。
あの日、どんなに努力しても変えられぬ別れがあることを知った。
今、愛する者を残して逝かねばならぬことがこんなにも耐え難い痛みだと知った。
「これを、妻に…千聡に、渡してほしい」
しかしあの日の言葉は、切ない痛みと共に何物にも代えがたい光となって、俺の心を照らし続けてくれた
傍にいてくれてありがとう
傍にいさせてくれてありがとう
俺を父親にしてくれて、ありがとう
君の夫に、君の子の父になれて
幸せだった
千聡にこの想いは届くだろうか
もしも届いたなら…どうか、笑ってくれ。
不思議だな。悲しみよりも、愛しさが溢れて止まらない。
思い出すのは千聡の笑顔ばかりだ
また会えるその日まで、待っているからな。
できるだけ遠い未来がいい。
あとは、頼む。
ーーーー俺はいつまでも、君たちのそばに。
終