第3章 003
後ろから羽交い締めにされ、強く口を塞がれた大野は、ハンカチから香るキツい匂いに、視界が霞んで行くのを感じながら、意識を朦朧とさせた。
当然、抵抗することなど出来ず、立っていることすら出来なくなった大野は、一瞬グラリと身体を揺らすと、そのまま翔太郎の腕の中に倒れ込んだ。
慌てたのは翔太郎だ。
そうなることは予想はしていたし、そうなることを想定だってしていた。
が、まさかドラマで良く見かけるような光景が、まさか自分の目の前で起きていることが、不思議でならなかった。
ズッシリと、翔太郎の身体に全体重を預けて来る大野の目の前で手をヒラヒラとさせてみるが、大野はピクリとも反応しない。
「すげぇ…」
翔太郎は、溜息混じりに呟くが、そんな悠長なことをしている時間はない。
グッタリとした大野の腕を肩にかけ、まるで酔っ払いでも介抱するかのように装い、公園の脇に停めた車を目指すが、思ったよりも距離があることに気付いた翔太郎は、
「クッソ…、こんなことならもっと近くに停めりゃ良かった…」
自分の計画性の無さを呪った。
そして片腕で大野の身体を支えながら、ポケットから携帯電話を取り出すと、唯一…いや、厳密に言えば“二人”なんだが、その一人…健太に電話をかけた。
勿論、助っ人を頼むためだ。