第9章 009
重苦しいような、何とも言えない空気の中、榎本を除く全員の視線が、一台の携帯電話に集中する。
翔太郎に促され、渋々健太がポケットから出した物だ。
翔太郎自身のプリペイド式携帯電話は、未だに翔太郎の尻ポケットの中だ。
榎本が、弘行の携帯電話から送ったメールは、健太が持っていた携帯電話にのみ、送られて来ると思っていたからだ。
ところが…
念の為にと、成瀬がスマホにセットしたタイマーが五分経過を知らせると同時に、テーブルの上と、そして翔太郎の尻ポケットの中で、携帯電話が鈍い音を響かせながら振動した。
「どうやら時間のようですね」
榎本が健太の携帯電話を手に取り、健太に差し出す。
「な、何だよ…」
「どうぞ、確認して下さい」
「お、俺が…か?」
「当然です」
いあつこそないものの、眼鏡の奥で光る榎本の視線に気圧(けお)されるように、健太は躊躇いながらも、差し出された携帯電話を受け取り、ゆっくりと開いた。
スマホに比べれば格段に小さな画面に、メールの受信を知らせる通知が表示される。
「マジかよ…」
携帯電話を持ったまま固まる健太の横で、翔太郎も自身の携帯電話をポケットから取り出し、画面を確認した。