第4章 初めての煙
『また、吸ってる』
「おや、苦手だったかい?」
ここ数日ホールでは雨が降り続けている。
ホールに降る雨には魔法使いが出す黒いケムリのカスが混じっているので、人体には有害だ。そのせいで、外へ出かける人間は多くない。
カスカベとなりも例外では無く、雨の日は大人しく屋敷で研究に精を出している。特にカスカベは連日自室に籠もって魔法使いの研究にに没頭している。そんなカスカベを心配したなりは、自室まで様子を見にきた。
『別にそんな事ないですけど』
出会った時から白衣の胸ポケットにいつも入っていたソレをひょいっと拾い上げ、まじまじと見る。
『博士、タバコって美味しいの?』
「はは、どうだろうね。そう聞かれるともっと美味しい物は他に沢山ある」
そういうとなりの手からタバコの箱を取り上げ、慣れた手つきで一本取り出して口に咥える。その流れる様な一連の動作に見惚れてしまった。
「あれ、何処にいったかな?」
タバコを咥えたが肝心のライターが見つからず辺りをキョロキョロ見渡していると、スッとなりの手がカスカベの顔へと伸び、カチッと言う着火音と共に火が着いた。
「おや、君が持っていたのかい」
なりの手から火をタバコに着けると丁寧に深く吸い込み肺の中に一旦閉じ込め、時間をかけて細く長く吐き出した。カスカベから出た煙は部屋中に充満した。
「まるで魔法使いのケムリみたいだろう」
けらけらと笑いながらそう言うカスカベは、誰かを思い出して懐かしむような瞳で窓の外の雨を眺めた。
その瞳を見てなりはカスカベが誰を思い出しているのか気付いてしまった。その過去の思い出に自分の入り込める隙はない。そう思うと体が勝手に動き出した。