第70章 ※ 待ちわびた瞬間
あぁ、そっか…。
眠ろうとしている私を一也は名前を呼んで起こそうとしてくれてるのかも。
このまま一也とここで眠っちゃだめかな…。
帰りたくないよ。
一也と一緒にいたい。
一也の身体に腕を伸ばして、ギュッって抱きついたら、嬉しそうな声がした。
「ちょっと眠っちゃおうか。いいよ、起こしてやる。」
一也の言葉に意識を手放した。
息苦しくて目が覚める。
一也の逞しい腕が首の上に合って、これは苦しくなるはずだとちょっと退けた。
起こすって言ってたのに、一也も眠っちゃったんだ。
体の上にない手は指先が絡んでいた。
スマホの時間を見ると4時。
今戻れば、シャワーを浴びたりできるかな…。
でも、もうちょっと一也の寝顔見ていたいな。
ホント…整ってる顔してるなぁ…。
形のいい唇を人差し指でなぞったら、パクって食べられた!
「起きてたの?」
「今起きた。おはよ。」
「びっくりさせないでよ。おはよ。」
「さて、準備するかー。今なら間に合うよな。」
身体を起こしてんーーーと伸びをした。
朝モヤがグラウンドにかかってる。
「今日も熱くなりそうだね」
「そうだな。」
昨日のゲーム大会でも沢村くんはリラックスできてなくて、さすがの一也もほっとけないと腰を上げた。
セットポジションからぱやーーーっとした顔をさせてる。
「まだ固いなぁ…もうちょっとバカっぽかったような…なぁ?」
奥村くんにも聞いていて彼もそうですねと返していた。
だらしなくてゆるゆるだったと付け加えるから思わず吹き出してしまう。
「ねぇさんまで!!?」
「ごめん、ごめん。私のことは気にせず続けてください。」
「浮かれるより全然いいけど…。」
「ついでに告白しておくとよ、ほんの1.2ヶ月前まではお前がこの夏エースナンバーをつけてる姿なんで想像できてなかった。」
ここ最近のピッチングを、市大や薬師にぶつける事ができたらワクワクするなと一也は目を輝かせて言う。
「沢村先輩に告白しちゃいましたけどいいんですか?」
「ふふふっ、いいよ。一也にあんな顔させられるのってピッチャーだけだもん。」
私と奥村くんの会話を聞いていたのか一也が振り返った。
「妬いてくんねぇーの?」
そう言って楽しそうに笑ってる。
キラキラした一也を見られて満足だよって答えたら、何故か奥村くんが顔を赤くした。