第21章 あと一つ
成宮くんの性格をよく知ってるからこそのリード。
これに答えちゃう沢村くんの投球もすごい!
これはいけるかもしれないというムードになって、スタンドの声援も大きくなる。
降谷くんヒット、沢村くんの絶妙な送りバンドから白洲くんのファースト強襲打。
同級生たちは白洲くんが吠えてガッツポーズをした事に驚きを隠せないでいた。
倉持くんの決死のスリーバンドスクイズで1点返した。
「春市くん…」
打席に向かったのは春市くんだった。
亮介先輩の足…やっぱ限界だったのかな…。
初球から打ちに行った春市くんのバットは折れてしまったけど、レフト前に運んだ。
4打席4安打、未だ10割の春市くんにスタンド中から歓声が巻き起こる。
純先輩は粘って粘ってフォアボールを選んだ。
次は…哲先輩。
これまでの打席、成宮くんは全力で抑えに来ている。
満塁なんだから、なんでもいい。パスボールでも、ワイルドピッチでも、エラーでも。ボールを転がすことができれば、なにかが起こりそうなそんな流れがこっちに向いている。
フルカウントからのチェンジアップを右中間に運んだ哲先輩のヒットでついに逆転。
ベンチもスタンドも大盛り上がり。あと二回抑えたら…。
ランナーは出したものの、送りバント失敗とサードゲッツーで無失点。
あと1回。あと1回だ。
バッターは御幸くん。
「あ、打った…」
「ランナーいないのに、御幸が打ったぞ」
ほんと御幸くんは狙い打ちだな。
ストレート1本に絞ってたんだ。
その後スクイズ失敗でこの回無得点。
掴みかけていた流れが…。
簡単には勝たせてくれない。
9回裏、2つのファインプレーでツーアウト。
あと1つのアウトで、甲子園に…。
一つのデッドボールがきっかけ
伊佐敷先輩の頭上を打球が越えていく
掴みかけた夢が…手のひらからこぼれ落ちた…
稲実を称える歓声が遠くで聞こえる。
向こう側とこちら側、まるで別世界だ。
試合終了のサイレンも耳に届いてこない。
信じたくなかった、信じられなかった。
涙が溢れて…だれも止め方なんか知らない。
なんて声をかけていいのかもわからない。
夜になっても、3年生達の涙は止まらない。