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【イケメン戦国】雑記こもごも—短編集―

第1章 かくれんぼ(謙信)


山化粧(やまけわ)う秋の頃。
木々は赤に黄色と色づき、風もやや涼しくなり始めた。
収穫を迎えた田畑も賑わい、城内も楽し気な声で満ちている。
そんなある日。

「幸村、入れてもらえる?」
夜長の潜めた声に幸村は怪訝な顔で襖を開けに来た。
「何だ?女が一人で男の部屋に出向くなんて軽率だぞ」
幸村としても謙信に誤解されては迷惑千万である。
そんな幸村をよそに、夜長はどこか楽し気で、悪戯っぽい目をして声を潜めている。
「ごめんね。でも、謙信様にお許しをいただいているの。城内ならどこでも行って良いって」
「本当か?」
疑わしい目で問われ、「本当だよ!」とやや声を大きくし、思わず自分でも口を覆う。
「とにかくお願い、中に入れて」
「……まぁ、謙信様が許しているなら」
状況は分からないが、取り敢えず入れてやる。
部屋の中は物が少なく、書物や武具がきちんと片付けられていた。
「あのね、今かくれんぼをしているの」
「……謙信様とお前が?」
「ふふっ、そう。一刻逃げきったら私の勝ちで、何でも一つお願いが出来るの」
今から勝った時の事を考えているのか、随分と楽しそうだ。
「一刻は長いぞ?しかも謙信様がよく知り過ぎた城の中で逃げ切るなんて、無謀だろう?」
「だから今、逃げながら考えているの。信玄様のお部屋はすぐに見つかると思って」
「……まぁ、一番に佐助、その次に信玄様、あとは針子部屋か」
幸村も自分が夜長を探すなら、と考える。
「そう。急場をしのぐ時間稼ぎには結構良い選択だと思うの」
「だが、ここにずっといても時間の問題だろう?お前が行きそうな場所を潰して行けばいずれ俺の部屋にも探しに来る」
「うん。ちょっと考えてこっそり移動するつもり。だけど、移動するにも道を選ばないといけないから。取り敢えず少しだけ匿ってくれないかな?」
楽し気な夜長は普段の表情とも少し違い、子供のようにあどけなく、それでいて甘ったるい香りがし、やや上気したやわらかそうな頬が胸を騒めかせる。
しかし幸村は自分の煩悶を理性と忠義心、そして何よりも自己防衛本能でねじ伏せた。
「匿うのは良いが、もし謙信様が来たら俺は味方してやれないぞ?」
「うん、そこまでは迷惑を掛けないから」
そこでがらりと襖が開き、二人はびくりとする。

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