第10章 2人の秘密基地
「あ、あの。
わたしは自分で食べれるんで、先輩も食べてください」
必死で告げるわたしに、先輩は笑みを崩さない。
「だーめ。今日はサクを甘やかす日だから」
そう言って、またわたしの口元にケーキを運ぶ。
でも、そこで何か思いついた顔をした先輩が笑みを深める。
「じゃ、オレも食べる」
そう言いながらも、先輩のフォークはわたしの口の前で止まっている。
これをわたしが食べ終わったらってことかな?
恥ずかしいがこれで解放されるならと、パクリとその一口を食べると、先輩の顔が近づき、口から抜いたフォークの隙間から先輩の舌が入り込む。
「んっ!!」
ビックリして思わず後ろに引こうとしたわたしの頭を先輩の手が掴んで、さらに引き寄せられる。
先輩の舌はわたしの口の中のケーキを味わうように這い回る。
「むっ、ん……っ」
唇がゆっくりと離れると、先輩と至近距離で目が合う。
真っ赤になってるわたしとは対照的に先輩は余裕の顔で、「ん、甘いね」と笑った。
恋人の先輩が、こんなだなんて知らなかった。
いつもクールで寡黙なイメージだったから。
わたしはそんな先輩に振り回されてばかりだ。
でも恥ずかしいくらいに気持ちを表現してくれる先輩を、わたしはさらに好きになってしまう。
小屋を出る頃には、西の空は綺麗な茜色に染まっていた。
「わぁ、夕日、綺麗ですね」
「うん」
小屋から見る夕日はいつもより少し近く見える気がして、なんだか圧倒されてしまう。
しばらく屋根の上で夕陽を眺めてから地面に飛び降りると、里への道をゆっくり歩き始める。
「あ、サク。
オレたちが付き合ってるの、暗部のみんなには秘密ね」
そうだよね。
変に気を使われたりしたら、任務もやりにくい。
「分かりました!
でも、同期の子には言っちゃったんですけど……。
よかったですか?」
「早いね」
「心配してくれてたり相談に乗ってくれてたりしたから、早く伝えたくて……」
「ま、暗部に漏れることもないだろうし、大丈夫じゃない?」
「はい!」
このときは、そんなに気にならなかったこの会話が、後で大きな不安の種となることを、わたしはこのときまったく気づいていなかった。