第43章 覚悟 2
甘露寺たちのいる部屋に向かって歩いていると、ふわりと忍び寄る影。
「光希さん、ちょっとよろしいですか?」
喉の奥で「ひぃっ」と悲鳴を上げる。
「はい……」
「こちらへ」
しのぶに、にこやかに診察室へ案内される。
椅子を進められて座る。
「食事をあまりとっていませんね」
「あ…忙しくて」
「忙しいとき程食べてください。食べないと脳が動きませんよ」
「はい」
「少量でいいので、何度かにわけて栄養をとってください。このままだと倒れます」
「ご心配をおかけしてすみません」
「…………」
「……あの、以上でしょうか」
診察室に沈黙が流れる。
「……おせっかいな指令」
「すみません」
やっぱりな、と思う光希。
「これで良かったのか、私にはわかりません」
「……お相手の方は、嬉しそうにしていました。今まで見たことないくらいに」
「そうですか」
「俺の予測外のことになってしまってあたふたしましたが……胡蝶さんにはご迷惑でしたか?」
「いえ。そんなことはありませんよ。少々戸惑ってはいますが」
「なら、良かったです。胡蝶さんは複雑かもしれませんが、俺は良かったと思います」
「…はい」
「あ、俺、知らなかったんですけど、胡蝶さんてまだ18歳なんですね。大人っぽいからもっと上だと思ってました」
「……老けてます?私?」
「いやいや違います!顔、怖いです!…いや、俺が言いたいのは、そんなに難しく考えなくていいんじゃないかなってことです」
「……?」
「もう、立場とか責任とかいろいろなもの、全部向こうに押し付けて、胡蝶さんは楽に恋愛すればいいんですよ。向こうは立派に大人なんですから、なんとかするでしょ。ってか、しろ」
「そういうものでしょうか」
「あの人もそのくらいの覚悟があって、胡蝶さんを連れ帰ったはずです。そうじゃないなら俺が許さない」
「まあ怖い」
俺はあなたの方が怖いよ、と光希は密かに思う。
「鬼倒したら祝言です。派手にやりましょ」
そう言って楽しそうに笑う光希。
しのぶは目を丸くして、すぐにふっと細めた。柔らかい笑顔になる。
「質素な式で十分です。参列者が多いと嬉しいのですが……あの人、皆から嫌われてますからね」
そう言って、二人で笑った。