第5章 和解 ※過激な描写あり
「ごちそうさまでした」
「お粗末さんでした」
「何時に出るの?」
「もう少ししたら準備して出るで、はゆっくりしてってええよ、風呂でも入りいや」
「うん、ありがとう。あのさ、これ」
「ん?なんや?これ」
さっきバッグから取り出した物を簓さんの前に置いた。
「お世話になってきたしお礼にと思ってプレゼント、大したものじゃないけどさ」
「そんな気使わんでもええのに、なんかえらい軽いな?」
簓さんは想像がつかないのか疑問符を浮かべながら包装紙を破っていく。
箱へたどり着くとゆっくり蓋を開けた。
「……扇子?」
「簓さんに似合うかと思って…気に入らなかったら買い直すよ」
「うわぁ、めっちゃええやん!センスええな!扇子だけに!」
喜んでくれてホッとした、俺もついつい笑顔になった。
「笑うとるっ!俺の親父ギャグでが笑うとる!」
「その親父ギャグで笑ったわけじゃない」
「盧笙みたいなこと言うなや!おもろいやんけ!センスと扇子かかってんねんぞ……これってラップの韻に使えるんとちゃうか……?」
確かに、親父ギャグとラップは紙一重なのかもしれない?
「喜んでくれてもらえて良かったよ」
「大事にする、商売道具にさしてもらうわ!」
簓さんは扇子を開いたり閉じたりしながら言葉数が少ないくなっていった。
どうしたのかと聞くと簓さんは少し寂しそうな顔をする。
「行ってまうんやなトウキョウ」
「すぐ会えるよ。簓さんもトウキョウ来ることあるし、俺も時間作って帰ってくる」
「そやな!毎日電話してええんやで!」
「はは、簓さんもね」
「ちゃんと言ってへんかったな、トウキョウ進出おめでとう!頑張りや売れっ子芸人!」
力強く握手をした。
出待ちを初めてしたとき簓さんは、おおきに!と右手を差し出してくれた。
それが嬉しくて握手したんだ、力強く。
優しくて温かくて大きな手は昔も今も変わらない。
簓さんと出会って人生が180度変わった。
芸人として、人として、男として、恋人として、心から尊敬し感謝している。
「ありがとう、簓さん!」