第4章 怒りの裏返し
トウキョウ進出するという話は芸人の間であっさりと広まっていき、俺らのことを売れないと小馬鹿にしていた芸人からも祝福された。
認められてきたということだろうか。
オオサカのテレビ番組の出演数が増えていきどんどん忙しくなっていった。
簓さんに会う時間が全然ない、連絡も取ってる余裕が無いくらいに。
仕事が終わり疲れはてて自宅に帰ってきた俺は、風呂に入る元気もベッドにたどり着く体力も無く床にごろりと寝そべった。
意識が遠退いていく中、電話が鳴っている音が聞こえる。
放置して寝てしまおうかと考えたが筒井さんからだとマズイと思って電話に出た。
「もしもし、お疲れ様です……」
「忙しそうやなぁ、声からして疲れとる」
声を聞いて意識が覚醒する、思わず飛び起きた。
「さ、簓さん!」
「そやで、お疲れさん」
「お疲れさまです、何か久しぶりな感じ」
「最近ようテレビで見るわ」
「お陰様で」
「今家?」
「家だけど」
「近くにおんねんけど行ってええ?」
「うん」
「ほな行くわ」
電話が切れて10分ほどで簓さんがやってきた。
インターフォンが鳴り玄関を開けるとずっと会いたかった人がそこに立っている。
合鍵で入ってこんのかいとツッコミたかったがそんな元気は出てこなかった。
「めっちゃ顔疲れとるで」
「ちゃんと寝れてなくて、何か飲む?」
「いやいらん、話しにきたんや」
簓さんが真面目なトーンで話してくるから少し嫌や予感がした。
7畳程の殺風景な部屋、簓さんは座らず俺を見た。
「俺に言うことあるんちゃうん?」
やっぱりだ、簓さんは怒ってる。
「トウキョウ進出の話だよね、ごめん、遅くなって……」
「人伝てで聞いたわ」
「一番最初に簓さんに言おうと思ってたんだけどタイミングが合わなくて……」
「タイミングて、盧笙ん家行った時にでも言うタイミングはいくらでもあったやん」
「い、言おうとしたけど簓さん遮ってくるし!」
「電話でもええやん!」
「会って言いたかったから!」
「はぁ…もうええ、トウキョウでも海外でも行ったらええやん」
「は、はぁ?」
「俺のことは忘れて好きにしたらええよ……別れよ」
別れる……??なんで?