第4章 鮮緑ー吸う
「……きつい」
滴る汗を首にかけたタオルで拭い上を見上げれば、少し先にはジェイド先輩の姿。
「もう少しですから頑張って下さい」
私が追い付くまで待ってくれた先輩は、うっすら顔に汗が滲んでいる程度だ。息の上がった私とは違い、一切呼吸も乱れていない。
さぁ行きますよ、と先を行くジェイド先輩は何時と違いテンションが高いんだろう、鼻唄すら聞こえてくる。
私は三日前のことを思い出し、何も考えずに付いてきたことを後悔した。
「あれ、ユウ、食欲ねぇの?」
「うん…」
昼休みの大食堂。何時ものメンバーで昼食を取っているが、箸が進まないのを見てエースが心配そうに私を覗きこむ。
「体調悪いか?無理してないよな」
「ううん、大丈夫!至って元気だから!」
先日の件があってか、世話焼きのジャックは本当か、と疑っているようだ。
「体調は良いんだけど、ちょっと考えることがあって…」
それは正に昨日のこと…そう、フロイド先輩からキスされたことだ。
あのままグラウンドへ戻ったら、フロイド先輩は私の頭を一撫でして何処かへ行ってしまった。
あれは一体どういう意味だったんだろう。私が女だとは知らないはずだし、そもそも何でキスしたのか。
かといって直接聞く勇気もないし、次会ったときにどんな顔をすればいいのか分からない。
「あーーー、もうっ!」
モヤモヤする気持ちを振り払うかのように、ブンブンと頭を左右に振る。
「…何か悩みが吹き飛ぶようなことないかなあ」
「それでしたら、丁度良いことがありますよ」
ふいに聞こえた声に、振り返ればそこにはジェイド先輩がトレーを手に立っていた。
こちら座っても?と左隣の空席を指示したので、頷く。
先輩のトレーにはキノコのスパゲッティーが乗っていた。
「ユウさん、山へ行きませんか?」
「へっ?」
いきなりの提案に思わずぽかんとしてしまう。
「先日お話したでしょう?僕の部活のこと」
「あ、山を愛する会ですよね」
「ええ。その活動の一環で、次の土曜日に山へ行こうと思うのですが、ご一緒にどうですか?」
山登りしていると悩みも吹き飛ぶかと思いますよ、とのこと。
確かに、こうやって悶々としているより、自然のなかで身体を動かせば頭もスッキリするかもしれない。
「……行きます!!」
そう答えれば、ジェイド先輩は嬉しそうに笑った。