第1章 prologue
「いらっしゃいませ、そまみさん」
いつからか通い始めた都内のBAR。
顔馴染みとなったマスターに、カウンター席へと促される。
「何か飲まれますか?」
コトリとウエルカムスープを差し出された。
私は、なんとなく頭に浮かんだお酒を注文する。
「コペンハーゲン、ですね」
微笑を口角に浮かべたマスターは、低い声とは正反対に可愛らしく見えた。
何かいいことがあったのだろうか…?
どこかルンルンとした手つきで、マスターはジガーに手を伸ばす。
あっという間に、空間にはシェイクする音だけが響きわたっていた。
そういえば、今日は私以外にお客さんが居ない。
コースターの上へカクテルを置いたマスターに、その事を聞いてみた。
「実は、そまみさんが来店するまでお客さんの入りが悪くてね。だから、来てくれて良かったよ。少し寂しかったんだ」
ハハハと冗談を笑い飛ばしながら、マスターは「そういえば」と会話を続けた。
「そういえば、今日はいつもより綺麗だね。」
28歳の男性にもなると、そういう事にすぐ感づいてしまうのだろうか。
いつもよりメイクに時間をかけた理由を、ポツリポツリと話し始める。
「なるほど…。友人の付き合いで合コンか。イイ人はいた?」
マスターがコテンと首をかしげる。
グラスを傾けながら、いなかったと私は伝えた。
「そうか!」
ハハハと笑い飛ばしたマスターは、ドアの開かれる音に気付き、口元に柔らかい笑みを浮かべた。
「いらっしゃいませ。お二人ですか?」