第7章 時を越えて〜顔合わせ〜
「そうか。それなら良かったな。」
舞に手拭いと水を持って来た秀吉が、舞の頭をポンと撫でた。
「うん。ありがとう!秀吉さん。」
嬉しそうに笑う舞に秀吉の顔も綻ぶ。
「なあ、舞。」
「ん?」
「上杉とやり合って大丈夫だったか?」
「大丈夫って?」
「怖くなかったか?どこか痛くないか?」
「うん。大丈夫だよ!心配してくれてありがとう。」
「そうか。まあ、謙信もさすがに加減はしただろうしな。」
秀吉の言葉に対して苦笑いする舞。
「どうだろう?たぶん手加減はされてないと思うよ。」
「はっ?そうなのか?」
「私、一生懸命に逃げてかわしてたでしょ?あんな太刀をまともに受け続けてたら、腕が持たないからね。」
そう言ってペロリと舌を出し、悪戯っぽく笑う舞。
「逃げるなんて卑怯だとは思ったけど、どうしても負けたくなくて、なりふり構っていられなかったから。それでも体力が持たなくて負けちゃったけど…。」
「女を相手に手加減しないとは、鬼だな。」
「鬼かー、そうかなぁ?違うと思うよ?」
「えっ?なんでだ?」
「謙信様はどんな相手でも真剣に向き合う人なんだと思う。それが謙信様にとって相手への敬意の示し方なんじゃないかな。その人の性別とか年齢とかは関係なしに誰に対しても平等に向き合う人なんだと思うよ。」
「……」
「あっ、もちろん相手を見て加減したりすることも間違いじゃないと思う。政宗がそうしてくれて私は救われたし。ただ、みんなそれぞれ価値観があるって言うだけで、謙信様も政宗も私と真摯に向き合ってくれた。だから、謙信様が鬼だとも、政宗が甘いとも私は思わないよ?」
「…そうか。」
「うん。だいたい、謙信様に手加減されてたら、もし勝っても私の言い分を通せなかった。手加減されて勝ったのに『要求を聞いてください』なんて恥ずかしくて言えないでしょ?謙信様が本気だったから私も『絶対負けない!』って必死になったんだし…。真剣に勝負してもらえてありがたかったよ。」
「そうだな。舞がそう言うなら、そう思うことにする。」
「ふふっ。ありがとう。」
舞と秀吉のやり取りを聞いていた謙信は、なぜかとても気分が良かった。
女子相手にやり合った事を、少なからず後ろめたく思っていた謙信の憂いを舞はあっという間に拭い去ってくれた。
言わずとも己の『義』を理解してくれるその杞憂な存在を、
(側に置きたい)
と心から思った。